不動産屋を始めたグランマの絵のない絵本創作 

挿絵を書いてください。一緒に絵本を創りませんか。連絡を下さい。

童話 「門」 ①

 作物が豊富に取れる肥沃な土地が続く黒い大地のはずれに、

この集落で一番大きな墓地があります。

の北のはずれに

ブリキの屋根とブリキの壁に囲まれた平屋の小さな家がありました。

先祖代々から墓守として生きてきた月の家です。

墓守の家には受け継いできた家訓、

1墓のお供えは七夜過ぎれば下げて食べてよし。

2苔は生えさせてはならない。

3子はひとり生を受けてよし。

の3か条がありました。

墓守の家では子供がはやり病などでなくなると、

またいつの間にか墓守に1人子が生まれていたというように、

大昔から同じことを繰り返して家が継ぎ、継がれてきたのです。

 月は学校で友達はいません。

というより、その集落では一番家柄が低い家なので、

だれも彼女を友として認める子はいないというだけ。

いじめにもならない、無視の世界が学校の中にありました。

月はいつも独りぼっちでした。

でも、ひとりに慣れていたということもありますが、

墓地の中の小さな虫や野良猫やモグラなど

遊びには事欠かない友達がたくさんいましたから、

寂しさなんか感じたことはありませんでした。

 月は両親の手伝いをよくしました。

お墓に飾られた花が枯れると、取り除いて周りを掃除します。

苔はあちこちに生えます。

大きなたわしで、墓の前の石畳や墓の名前が彫られているその隙間や墓の角々に

こびりついた青い苔を、

水の入ったバケツを片手で持ちながら洗っていきます。

すると、月が名付けた野良猫のんが

いつもバケツの水をぺちゃぺちゃと飲みに来て、

飲み終わると今度は足元に顔を摺り寄せて来るのです。

 

 掃除が終わり、切り株に腰かけてのんを優しく撫でおろしていたら、

急にのんの目がきゅっと鋭く光り、木の陰あたりにそらさず目を向けました。

月も一緒に木のうしろの人影に目を向けると、女の子らしいと判りました。

春分秋分でもなく、盆でもなく、

葬式や忌でもない日に、子どもがひとりで墓地に来ることはなく、

月はどうしてそこに女の子がいるのか理解ができず、

何をどう話せばいいのかもわかりませんでした。

二人の間にしばらく沈黙が続いたあと、

「月ちゃんでしょ」

と木のうしろから声がしました。

月は学校で声を出すことすら汚らわしい存在と、思われていたので、

急に返事なんて出せるはずがありません。

じっと声の方向を見るだけが精一杯でした。

「月ちゃん」

また、声がしました。

時間がその声を包んでくれて、

月の耳元をゆっくりと通りすぎてくれました。

月は一週間前に転校してきた同じクラスの彩子さんだとわかりました。

「私は月ちゃんと友達になりたいってずっと思っていたの」

彩子さんは姿を見せずにいいました。

「月ちゃん、そこへ行ってもいい?」

彩子さんの問いかけに月は頷きました。

彩子さんは白いワンピースを着て、お出かけ用としか思えない黒い上等の靴を履いていました。

「月ちゃんと遊びたいと思って、お絵かき帖や色鉛筆や、これはお母さんが作ったお手

玉なのだけど、持ってきた」

彩子さんは花の刺繍がしてある手提げバックからそれらを一つずつ取り出して、

切り株の隣のお線香立てと花瓶が取り付けられてある、お墓の台座に広げました。

「なんで遊ぶ?」

彩子さんが月の顔を覗き込みました。

「お絵かき帖」

友達が話しかけてきたことは初めてでしたし、それに答えたのも初めてでした。

今までが夢であったのか、この出会いが夢なのか、月は不思議な気がしました。