童話 「門」 ②
彩子さんはお絵かき帖の一枚を切り取って月に渡し、
隣に座ると、二人の間に色鉛筆を置き、
片隅の曼殊沙華を描きだしました。
月はのんを写生しました。
しばらくすると、あたりは紺碧に染まり夕暮れの時間になっていました。
「もう帰らないと」
月がいうと、
「そうね、私も」
彩子さんは言いながら、片付け始めました。
「明日は席替えがあるでしょう、月ちゃんの隣になるといいな」
「うん、彩子さんの隣の席になりたい」
「それじゃあ、あしたね」
「明日ね。どうもありがとう」
彩子さんが、ブリキの家の前を通って、北の門をくぐって行くのを見送りました。
次の朝、学校はいつもと違う感じがしました。
教室に入ると、彩子さんはもう来ていて、
「月ちゃん、おはよう」
と声をかけてきて、月は一瞬まごついたのですが、言葉が先に
「おはよう」
と出ちゃいました。
そしたらなんか急に場違いな自分に会ったような
思いがしてうつむいてしまいました。
教室の友達はいつものように無視を続けています。
朝礼が済むと、
「昨日お話ししましたが、今日はクラス替えをします。好きな人どうしで座りますか?
それともくじで決めますか?」
先生が生徒に聞きました。みんなは
「好きな人どうしがいいです」
と口々に大声をあげました。
月は席替えが嫌でした。
好きな人どうしで決める時は、
いつも最後の机に一人で座らなければならなかったからです。
でも今日は違います。
くじになりませんように、と祈っていました。
「学年最後の学期です。良い思い出が作れるよう、先生は皆さんの意見に従いましょ
う。席替えは好きな人と座って下さい」
「月ちゃん、ここよ」
彩子さんが手招きした席に月は座りました。
それは、月が家柄とか貧しさとかを自分から外して、
新しく歩いていく道へ続く
門の扉が開いたときでもありました。