不動産屋を始めたグランマの絵のない絵本創作 

挿絵を書いてください。一緒に絵本を創りませんか。連絡を下さい。

童話 「門」 ③

学校が終わって遊ぶ約束をしたので、月はお墓の門の前で彩子さんを待ちました。

彩子さんは花の刺繍の手提げバックをもって現れました。

ケンケンやロウセキで石畳に色々描いたあとで、

昨日の切り株に座って二人は話しだしました。

彩子さんはお父さんの転勤で一つの場所に長く住んだことがなく、

友達が作れなかったことなど。

月は学校では休憩時間は図書室に行って本を読んでいること、

家に帰ると広い墓地をいくつかに区切って

、区切りごとに掃除をしてきれいにすることなど。

沈黙は二人の間では存在しませんでした。

月は話すってことがこんなに楽しいんだと初めて知りました。

彩子さんは、

「月ちゃんの夢はなに?」

と聞きました。

「ワッフルを食べてみたいの」

「ワッフル?」

「図書館で読んだ山本有三の兄弟って本にワッフルがでてくるんだけど、食べてみたい

と思った」

彩子さんは一瞬目が輝き、

「月ちゃん、来て!」

と月の手をつかんで奥のお墓の方へ歩きだしました。

「ほら、ここにお供えがあるでしょう。これがワッフル」

と、お墓の台座にある白い紙の箱を指さしました。

月はびっくりしました。

「これ?でもどうして彩子さんはここにワッフルがあったなんて知ってるの?」

「さっきかくれんぼしたでしょ。それでね。さあ、食べましょう」

と言うと、手をワッフルに近づけました。

「だめだめ。お供えは七夜経たない前に食べるとお父さんに叱られる」

「箱の中に日にちが書いてある。ほらね」

彩子さんは得意げに箱からジャムのワッフルを取り出して、月に差し出しました。

月はその墓に新しいお塔婆が何本も立ててあったのを見たのですが、

その話はなんとなく彩子さんにはできませんでした。

月はひと口ワッフルを口の中に入れたら、

ふわーっ

と広がって、甘い香りが体中を走りました。

「どう?」

「おいしい」

「夢が叶っちゃった。次の夢を探さないとね」

彩子さんが言うので、月は思わず、

「じゃあ、彩子さんの夢は?」

と尋ねました。

「私の夢は、月ちゃんとずっと友達でいたい」

「私も」

彩子さんは、月の次の言葉をさえぎって、

「月ちゃんの家の前にある門をくぐったら、何もない世界へ行かなくちゃならない。

はその門がくぐれなくて、いつも外から月ちゃんを見ていたの。

友達になれてやっとこの門を通ることができた」

彩子さんは月の顔をじっと見つめました。

月は彩子さんが自分の前に現れた意味をやっと知ることができました。

「だからもう、私の夢、叶うことはできない」

月は、たったひとりの友達と離れたくなくて、

自分も一緒に行くと言おうとしましたが

っきのお墓に立てかけられていたお塔婆の意味がやっと

今わかって、声に出せませんでした。

あたりは紺碧の空に染まり始めました。

 

 月は学校で彩子さんが教室にいたかどうかを誰にも聞きませんでした。

 彩子さんと過ごした2日間の出来事は月を変えていきました。いじめに正面から立ち

向かったので、みんなの無視は自然に変わっていきました。