空に続く坂 ➄
しばらく行くと、
「坂は山だ。とても険しくて登れない」
家の中から声がしました。
「見上げると、坂の上の とそ神社の桜が
それは見事に美しかった」
また声がしました。
寝たきりじいちゃんです。
窓に登った、ごろつきにゃんが
「一緒に行くかい?」
と聞くと、
「何年も寝たきりだが、、今日は坂を登りたい」
じいちゃんの横で
伏せていた大きな犬のちびが、
「お供しますよ」
尾っぽを振って吠えました。
「決まりだね。じいちゃんも一緒に出発だ」
ふ~ちゃんは
「えいつ!」
やったねポーズを出しました。
大きなちびが
カーディガンと杖を持ってきて、靴と帽子もです。
みんなは着替えを手伝いました。
すると、
ヘテロが
点滴棒にぶら下がり、
尾っぽを
じいちゃんのおなかに
まきました。
「いーちに~の、に~のぅさーん」
じいちゃんが
ベッドからでて立ったのは
何年ぶりでしょうか。
「拍手を送りましょう」
ありんこ博士が
足と足を重ねて叩くと、
「はかせよ、おいらにもわかった」
ごろつきにゃんが
じいちゃんの足元に顔をすりすりしました。
じいちゃんは
窓際のベッドからいつも見ていた坂の上へ
ふ~ちゃんたちと一緒に歩き出すために足を前に出しました。
桜の花びらが、
じいちゃんの頭や肩に
ひらひらと
舞い降りてきました。
風がもっと暖かくなって
じいちゃんのせなかに吹き付けました。
「春の今日のこの日はとても美しい」
博士がふ~ちゃんの髪とカラスの帽子のすき間から
歌うように唱(とな)えました。