不動産屋を始めたグランマの絵のない絵本創作 

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友だちねこ君

ねこ君は庭に面した大きな窓の横の小さな出窓が大好きです。

庭と通りが見えるし、お日さまもいっぱい射す場所だからです。

今日もねこ君は出窓で、

ゴローンとおなかをお日様にあてて、

足をまっすぐ延ばしてひと眠りしました。

 

ゆっくりと目を覚ましたあと、

いつものようにお庭のたくさんの小さな虫を見渡しました。

キンモクセイの樹の下に

くろい山のような盛り上がりが見えました。

そこから長~い黒い一本の線がどこまでも続いていました。

目を凝らしてじっと見つめたら

アリがゲジゲジの死体を切断し、

列となってそれらを運んでいたのです。

よく見ると

大きなおなかをしたアリたちが

何も持たないで行列に加わっています。

「なんでゲジゲジを持たないで巣に帰るんだろう?」

ねこ君は不思議に思って

じっとアリを追って見てました。

 

するとどこからか声がしました。

「もりもりと食べて巣に帰り、

おなかから栄養分をだして貯蔵庫にためるのさ」

ねこ君は木の上、塀を見渡し、葉と葉の先に視線を向けると、

友だちねこ君が

あじさいの花の陰に居ました。

行儀よく座ってじっとねこ君を見ていたのです。

 

「なんで僕を見ているの?」

「そこは暖かいか?」

「そりゃあね。気持ちがいいところだよ」

「俺には夢がある」

「何の夢」

「そこでごろんとお日様にあたることさ」

「それが夢なの?」

「おれの寝床の材木の隙間にもお日様は降る。

しかし、そこでうつらうつらしてみたい。

おまえのように、ただ、ただ、ひと眠りしたいんだ。それが夢さ」

 

ねこ君は起き上がって、背伸びをしました。

それからひょんと降りて窓の前に来ました。

「君の夢は簡単。僕の家へおいで。

この出窓で思いっきり寝ればいい。

ずっと寝てればいい」

「俺は毎日この舌と足で、毛づくろいはしている。が、

のみはいるし汚い。それでもいいのか?」

「夢がそんなことで叶えられなくなるの?

ばかばかしい」

「おまえのお母さんに叱られる」

「お母さんは、

誰でも通れるように庭にけもの道を作った。

みんなが幸せになるのが好きなんだ。

怒るはずがない。こーっちへ来て」

 

友だちねこ君は

ねこ君が居間を出るあいだに、

ぴゅーんと足を大きく振って走り、

猫専用の通し口の前に、お行儀よく座って待ってました。

 

「ここからどうぞ」

ねこ君は

ドアの下の通し口の前で、右足を前に出して言うと、

友だちねこ君は

ゆっくりと頭を入れ、次に足を、最後に胴体が通し口を通過しました。

 

時間にすれば1秒か2秒でしたが、

友だちねこ君には一瞬と思えたし、

地球から見える

天の川に連なる惑星のひとつへ移る、

長い時間のようにも感じました。

 

中に入ると、友だちねこ君は、

 

「風の音が違う」

と思いました。

 

また、

 

「風が優しい」

とも思いました。

 

さらに、

 

「包むあったかさが漂っている」

と思いました。

 

「これが家というものか」

友だちねこ君は眼を閉じて、

この風とこの暖かさの中で大きく深呼吸しました。

 

「こっちだよ」

ねこ君が友だちねこ君の背中を、頭でなでなでして、

「来て、」

と先へ行こうとすると、

友だちねこ君は、足が動きません。

玄関の銅像猫君の横で、

同じ立ち姿勢をとって、

「ちょっと、待ってくれ」

と、言いました。

風がひゅ~と玄関を通りすぎていきました。

「どうしたの?ぼくについて来て」

 

ねこ君は

友だちねこ君と出窓で寄り添って、寝てるところを想像しました。

楽しくなって、

「はやく、おいでよ」

廊下を走って居間のドアの前にぴょこんと座って、

ほころんだ顔と、かわいい仕草で呼びました。(=^・^=) (*^-^*)

それでも、友だちねこ君は動きませんでした。

 

やっと、低い声で、

「やっぱり、」

とだけ、言いました。

ねこ君は右足を上げて天を指し、

「お日様はまだまだ天から降りて来てるよ」

心配しないで、大丈夫だよと呼びかけようとしたら、

小さな声でしたが、はっきりと友だちねこ君が答えました。

「やめる」

「なにを?」

「出窓さ」

「どうして?」

「・・・」

「ゆめなんでしょ」

ねこ君はさっぱりわからなくなって、廊下の壁にぴゅーんと上がっておりました。

「おれは夢があったから、どんな目にあっても耐えて来れた。

いつか、一度でいい。

ねこ君のようにあそこで寝てみたい、とね」

 

友だちねこ君は、

他の誰かに、じゃなくて、

自分にむけて、ゆっくりと声を出しました。

「夢が叶えば、、おれの夢はなくなる」

「次の夢を持てばいい」

とねこ君が言いました。

「ねこ君は幸せねこだ。それ、出来る。

しかし、おれは、おれの夢はただ一つ。

おれの一生に、他の夢ってあるだろうか」

「ぼくはきみと出窓に行きたい」

「おれは、

雪の降る寒い冬も、

大雨でびっしょり濡れた日も、

えさがなくてひもじい日も、

夢をみて耐えた。

この夢がなくなったら、

今年の冬の寒さに耐えられない」

 

ねこ君は、

友だちねこ君の足元にうずくまって

静かに頭を伏せました。

「俺にとって、

夢は

死ぬときに一緒に持っていくもの。

叶っちゃいけないものなのさ」

「だから?」

ねこ君は哀しくなって尋ねました。

「だから、おれは、出窓にはいかない」

友だちねこ君はさらに、

「夢があれば、

元気は、おれについてきてくれるからね」

と笑顔で言いました。

 

ひと振りの風が玄関に降りて、

猫の通し口を揺らしました。

 

友だちねこ君は、

「ありがとな」

と、ねこ君の頭をひと撫でし、

それから、

「じゃあな」

と、

小さな出口を押して、

外へ出ていきました。

 

時間にすれば1秒か2秒でしたが、

友だちねこ君には一瞬と思えたし、

地球から見える

天の川に連なる惑星のひとつへ移る

長い時間のようにも感じました。

 

ねこ君は、

「僕が普通に過ごしていることを、

夢に持つ君がいたなんて、

感謝って、こういうことにするものなんだね」

と思いました。