哲学が魚に⑰仮題
「水産試験場へ連れて行く方法もあるが、今は閉まっている。
明日迄待たないほうが賢明だ」
そこへ、海君がやってきました。
「おじいちゃん、よくわかった。海に返そう。
イワシ君には長生きしてもらいたいんだ。
何故って僕に考えが浮かんだ。それを見届けて欲しいからさ」
すると、
「言ってください。なんです。名案ですか」
イワシは、水槽に沈みそうな体をしゅんと立てて尋ねました。
「世界には放射性物質を研究している人がたくさんいる。日本にだってね。
ところが、今さ、経済を立て直すとかの理由でさ、
国は研究費を削減してるんだ。
それっておかしいと思う。
生活に便利なものが破滅をもたらすことがあると僕は知った。
化学や物理を使って革新技術を開発し、使うのであれば、
人間や、海や大地の生きるものたちへ安全を約束しなければならない。
危険をしっかり認識しないで、便利さだけを追求したからこんなことになった」
「なるほど」
辻さんが言うと、
「いわしに海に帰れと説得できる名案があるか?」
船長が堰を切って尋ねました。
「僕は学者たちの研究を後押しする。
仲間を作って、学者たちが安心して研究に専念できるよう国に訴える。
ドラム缶を埋め尽くした日本になる前に、
学者は助成金や研究費を使って、
たくさん研究して安全な技術を早く開発する。
技術と化学で汚染水をピュアな液体に再生する。
それをイワシ君に見届けてもらいたい。相談したい時にいないと困るしさ」
「長い月日がかかりますな」
イワシはまたふ~とため息をつきました。
漁師のおじさんが、水槽に目をやって、
「河童に選挙権与える法律ができるまでだって、凄く長い時間がいるぞ。
どっちが早いか?」
と、言うと、
「日本を信じて欲しい。日本人を信じて欲しい」
海君は眼を輝かせてイワシに語りました。