哲学が魚に⑬仮題
「相対と結論付けると無理が起きます。
何故って?私たちが生き抜くために何をしなければならないか、
考えれば1つの本質にたどり着くからです。
大体ね、人間って何です?
地上でちょっと頭が良くて、ちょっと便利な生活があって、
ちょっとだけ理解できることばがあって、歌が上手なだけのことでしょう。
世の中に存在するすべてが泡だとします。
ちょっと経てばプッツーンと消えますね。
人間も泡となる生き物ですよ、そんなもんが、他(ほか)の、
例えば我々の生きる権利迄取り上げてしまうって、どういうことですか?」
「なるほど」
辻さんはもっともな話だと思いました。
「私たちにも権利を頂きたい」
「権利?」
「はい。私たち、いいえ、私はイワシです。
私は泳ぎが得意ですよ。
しかし、海の中の、一つのところで生きているやからもいます。人間と同じです」
「例えば何のさかな?」
「河童です。彼らはここの海に生きて、ここにいます」
「カッパ?河童は空想の世界でしょ」
「いいえ、実存の世界です」
あっはっは。辻さんはおかしくてもっと笑いたいと思いましたが、
くすくすと声を落としました。
「選挙権を頂きたい。否、河童に選挙戦を戦える権利を与えてほしい。
河童の生命(いのち)に係る重大な決定に何故投票権がないのですか?
河童は投票しなければならない」
しばらく沈黙が続いた後で、
「河童に選挙権を!」
とイワシが低いがはっきりと叫びました。
辻さんは驚きました。
仲間の選挙権を得るために、彼は私の針に口を刺し、釣りあげられてここにいるのです。
自分の命をかけてここへ来たのですから。