哲学が魚に⑨( 仮題)
「このバケツだっちゃいいが、」
「ちょっと待って。船長は仙台の出身?なんで福島に?」
「だっちゃか。孫が漫画見て言うもんだからよ、うちじゃ一番使うことばだっぺ」
「ああ、漫画なの?」
「そうだっちゃ(笑)、うるせー、、とかのな。うちの孫は漫画オタクさ。
水を替えるのが大変だ。まず水槽がいる。ろ過機とポンプもいる。
きれいな海水と水素の他に、酸素さえあれば、魚は生きていけるんだ」
辻さんは泣いた魚のお陰で、
無駄口たたかず仕事オンリーだと思っていた船長さんが、
奥さんと、離婚した娘の孫と3人で暮らし、
孫の影響がにじみ出る生活をしているっちゃ~と軽く話す人柄が分かって
親近感が湧きました。
割って入(はい)るって言葉がありますが、
辻さんは逆に割って入(はい)られるのは好きではありません。
ですが輪って入(はい)るのは好き。
入れば人が見えることがあるとはこの事なのですね。
実は彼女は子供時代に仙台に僅かでしたが過ごしたので、だっちゃ~を知っていたわけです。
船長はいきなり車を止めるとUターンし坂を下り始めました。
「俺んちに使ってない水槽やらなにやらいっぱいあるから、それ持っていけ」
車中で船長さんは海水魚の飼い方をレクチャーしてくれましたが、
例えば、カルキ抜き、比重計、塩分濃度と同じ濃度にする粉末。バクテリアが入った砂等、
名称が解らないし、どんな作用をもたらすのかもチンプンカンプンなので、
言葉はするすると耳から、頭からすり抜けていきました。
が要するに、
海魚は管理を良くしないと人間界で生き抜くのは難しいと解ったのです。