哲学が魚に③(仮題)
「あんた、上手だ、うた」
漁師さんが言うと、辻さんは微笑みました。
時間がどれぐらい過ぎ去ったでしょうか、
「その魚持ってけ」
漁師さんは顔を上げて辻さんに言いました。
「ありがとうございます」
足元の一匹を拾うと、
「もっと取っていいぞ」
と言って、
「船の中を覗いてごらん。中にバケツがある。それに入れて持ってけ」
ぶっきらぼうですが、あったかい声でした。
「ねこもたらふく食べて今度は鳥だ。食われる前に早くもってけ」
この漁師さんは、大漁の時は必ず
野の猫や鳥に福分けをするのだそうです。
気が付くと辻さんの横に猫が1匹、
目を閉じておなかの毛づくろいをしています。
辺りを見回すと数匹の猫たちがいました。
その姿はとても幸せそうです。
猫のお余りを頂戴し、
チャンスを狙って真上をグルグル飛びまわっている
鳥たちの分をかっさらう自分は人?
否、まさに猛禽類の仲間だった?
と考えたら
辻さんは、心がさっぱり、軽くなった気がしました。